まねき看板の『吉例顔見世興行』へ。読み方とあらすじを知って歌舞伎初心者も楽しもう!

2021年12月25日土曜日

伝統芸能を鑑賞しよう

t f B! P L


京都・南座の『吉例顔見世興行』に行ってきました。歌舞伎を見たのは人生通算で2回目。1回目は15年前、高校の課外授業みたいなので国立劇場かどこかへ行ったときのこと。興味もないのに連れて行かれた受け身の感覚だったので、ほとんど眠っておりました。


よって今回が、気持ち的には初めての歌舞伎。京都は南座、年末の風物詩『吉例顔見世興行』を見てきました。ファン歴ゼロ日の初心者にとって、大人になってからの歌舞伎はどうだったのか……。


結論から言うと、はちゃめちゃ面白かったです!!



15年前が悔やまれます。あのとき歌舞伎の面白さに気づけていれば、人生変わってただろうなあ。でも当時の私の感性では無理だ。大人になって人生を楽しむ余裕が出てきたから、今回の観劇が楽しかったんだと思う。


前置きはこれくらいにして、今回は歌舞伎ファン歴ゼロ日の初心者の視点から、吉例顔見世興行の豆知識、演目のあらすじと感想をお伝えしていきます。初心者は初心者なりに楽しんじゃえば良いじゃない!

『吉例顔見世興行』の読み方と基礎知識

まず、読み方を知りたくてググる人が多いようなので触れておきます。『吉例顔見世興行』の読み方は「きちれい かおみせ こうぎょう」です。


なぜ「顔見せ」なのか、同じく冬の風物詩として話題になる『まねき看板』と合わせて紹介していきます。

吉例顔見世興行の由来

吉例顔見世興行には、文字通り歌舞伎役者の「顔見せ」という意義がありました。江戸時代、歌舞伎役者と劇場は1年ごとに契約を結んでいたからです。11月から翌年10月が契約期間だったそうで。吉例顔見世興行は、「この1年間はこの人たちが役者です、ぜひ観に来てくださいね」の意味を込めた「顔見せ」だから、年末に行われるんですね。


1年契約でなくなった現在、吉例顔見世興行は東西の役者が顔を揃える、マーヴェラスな歌舞伎となっております。大勢のお客さんが観に来る前提で演目を考えているのか、予備知識と経験が少ない初心者にも見やすい演目が選ばれているような気がします。

『まねき看板』ってなに?

劇場の正面に、役者の名前が書かれた板が掲げられていることがあります。吉例顔見世興行の最中は特に凄くて、びっしりと隙間がないくらい、たくさんの板が掲げられます。



これが『まねき看板』または『まねき』と呼ばれるもので、吉例顔見世興行のシンボルになっています。まねき看板を見かけると、「年末だなぁ……」と感じる人も多いのだとか。


まねき看板の文字は丸っこい太字で、独特なフォントです。特に中村の「村」は、教科書体とは全然違う書き方で、記号のように見えました。二世帯住宅の象形文字みたいな、左右対称っぽい文字なんです。


まねき看板に使われるのは、「勘亭流」という書体。

  • 丸っこいのは、興行の円満無事への願い
  • 黒く太い文字は、客席が隙間なく埋まるように
  • 外側ではなく内側に撥ねるのは、お客を中へ招き入れるため
と、縁起の良い書体なのだそう。


詳しいことはさておき、勘亭流のフォルムからは江戸時代の雰囲気が漂ってきませんか? やや垢抜けないというか、気取らず庶民的なフォントで歌舞伎らしいと思います。開場前、外で看板を眺めているときから、歌舞伎の世界が始まっているような気がする。

2021年12月の吉例顔見世興行の内容は?



2021年12月2日(木)~23日(木)に行われた吉例顔見世興行の公演は三部制でした。演目はこちら。

【第一部】10:30~12:40

・晒三番叟

・曽根崎心中


【第二部】14:30~16:20

・三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場

・新古演劇十種の内 身替座禅


【第三部】18:00~19:55

・銀杏鶴玉章封裏 雁のたより

・蜘蛛絲梓弦

出演した役者や配役など詳しいことは、松竹の歌舞伎公式サイト、歌舞伎美人の公演紹介ページをリンクして割愛します。


このうち、私が見たのは第一部。理由は、直前までチケットが残っていたから。消極的な理由です。「吉例顔見世興行ってのがあるのか、せっかくだし見に行ってみるか」とミーハー心に火が付いたのが12月20日くらいで、あまり空席が残ってなかったんですよね。


結果論ですが、第一部の演目は私にすごく合っていたし、とても面白かったです! というわけで、『晒三番叟』『曽根崎心中』は初心者の目にどう映ったのか、語らせていただいてもよろしおすか?

日本のミュージカル?『晒三番叟』のあらすじと感想

歌舞伎における「三番叟(さんばそう)」は舞踊劇で、めっちゃ踊るんですよ、サンバだけに。『晒三番叟(さらしさんばそう)』も、ド派手な衣装を着た役者たちが踊りまくっておりました。


あらすじ

源氏の白旗が紛失して大騒ぎになっているところに表れた、曽我二の宮。怪しまれる二の宮ですが、奉納だと言って三番叟を踊り始めます。


しかし二の宮は白旗を落としてしまい、実は平忠度の娘、如月姫であることが発覚。刀を向けられる姫ですが、白旗を使って華麗な布晒しを見せ、踊りまくるのでした。


感想

ストーリーは全然わからなかったです。


でも、三味線や笛、太鼓の賑やかな音楽に合わせ、3人の役者が躍るのが華やかで面白かった。役者さんたちの身体能力、凄すぎますね。体をコンパスのようにして回るゆっくりした動きなど、機械仕掛けの人形のようでした。K-POPのキレキレなダンスとは別種の、舞踊の動き。しかも、どの瞬間も浮世絵のように姿勢が綺麗。人間じゃねえと思いましたや……。


姫の衣装が次々に変わる……というか、どんどん脱いで下から違う衣装が出てくるのも面白かったです。ストーリーは全然わからなかったのですが、衣装が変わる度に場の空気が変わるので、「あ、ストーリーが動いたんだな」とわかりました。衣装チェンジには舞台セットが変わるくらいのインパクトがあるんですね。冷静に考えると、それだけの衣装を着こんで踊りまくっているわけで、よく涼しい顔をしていられるな……。


それに姫の、布晒し、と言うのでしょうか。書初め用の細長い半紙を、大縄跳びくらい長くしたみたいな、薄くて長い白旗があるのですが。それを姫が、新体操のリボンのように華麗に操って踊るのですよ。ひらひら宙を漂ったかと思えば、鞭のようにシュッと虚空を割く。「捕まえられるもんなら捕まえてごらんなさい」と挑発するような舞に魅了されてしまいました。


ただ、バトル漫画でよくある、「自己紹介とか技を紹介している間に攻撃されるんじゃないの?」現象はありました。刀を抜いた男たちが、なかなか斬りかからない。まあ、舞台ってそういうもんでしょ、と言われればそのとおりです。私はちょっとツッコミを入れたくなってしまっただけ。


あとは照明が明るいので、白塗りなどのメイクがくっきり見えすぎて、うーんと思ってしまったのですが(薄明りで見たいと思った)、それ以外はとても楽しめました! 長唄の三味線と津軽三味線の違いもわかったし。三番叟は音楽と踊りが中心なので、ミュージカルのような感じかな。

誇り高い悲劇の純愛。『曽根崎心中』のあらすじと感想

『晒三番叟』の上演は約20分で、オープニングアクトのような演目でした。続く『曽根崎心中』は、1.5時間休憩なしの上演。映画と同じくらいの長さですね。


『曽根崎心中』は、近松門左衛門が書いた人形浄瑠璃の演目。のちに歌舞伎の演目にもなり、四代目坂田藤十郎がヒロインお初を演じて当たり役となりました。ちなみに今回私が観た『晒三番叟』『曽根崎心中』は、坂田藤十郎三回忌の追善狂言(いわゆる追悼公演)の演目です。


あらすじ

醤油問屋平野屋の手代・徳兵衛と遊女・お初は恋人どうし。しかし平野屋の主人は、徳兵衛を自分の姪と結婚させようと、縁談を勝手に進めています。持参金を受け取ってしまった継母からお金を取り戻した徳兵衛ですが、友人・九平次に頼まれ、そのお金を貸してしまいました。


徳兵衛は九平次からお金を返してもらうはずでしたが、九平次は「借りてない」としらを切る。しかも往来の人々に向かい、「徳兵衛は借用書を偽造してまで俺から金をむしろうとした」と言いがかりをつけました。


お金も商人としての信用も失った徳兵衛は死を決意。お初は徳兵衛に覚悟を確かめ、夜中に茶屋を抜け出した二人は、心中のために曽根崎の森へ急ぐのでした……。


感想

すーーーーーーごい悲劇。最高でした。こういう悲劇、大好きだな……。


近松門左衛門が書いた『曽根崎心中』はあまりにも有名なので、大筋は知っていた私。筋を知っている、つまりネタバレを知ったあとでも楽しめるのだから、舞台には「話の筋」以上の何かがあるのかもしれません。


徳兵衛は気弱な感じの男で、九平次にやりたい放題痛めつけられるんですよ。大勢の人が見ている街中で、九平次は「金なんか借りてない」「でっちあげだ」「酷い男だねえ」と、むしろ「僕が徳兵衛にいじめられている被害者です」くらいのアピールをします。周りの人も流されちゃってさ、徳兵衛が「俺を信じてくれよお!」と涙声で泣きついても、一斉にプイッとそっぽを向くんです。村八分というか四面楚歌というか、徳兵衛が嫌われ者にされる演技が残酷で、すごく可哀想になりました。


優しいけど気が弱い徳兵衛に対し、恋人のお初はサッパリとして強く、芯がまっすぐな女。九平次がお初を嫁にしたいと言う中、自分はさっさと死ぬ覚悟を決め、徳兵衛に覚悟を問うんですね。徳兵衛の事件なのに、お初のほうがずんずん前に進んでいくんです。いろんな人の生きざまを見てきた遊女の誇りと気高さに、賞賛すら覚える展開でした。


そしてラストシーン……森の中で心中を決める二人ですが、徳兵衛のためらい! 徳兵衛は短刀を抜いてお初を刺し、力がなくなったお初の手に短刀を握らせて自分の首を斬るのですが、そう簡単には終わらなくて。徳兵衛がお初を刺すまで、長い長いためらいがあるんですよ。自分が死ぬことも相当ですが、それに加えて、愛する人を自分の手で殺すなんて。徳兵衛の心情が伝わってきて、「心中は悲劇の中でも究極だな……」と感じたのでした。


さらにこの演目を秀逸にしているのが、近松門左衛門の原作にはないシーンの追加です。それが、九平次の悪事がバレる場面。悪いのは九平次で、徳兵衛は濡れ衣を着せられていた、と発覚するんです。


茶屋で真実が明らかになり、徳兵衛の無実がわかったので、「お初を呼んで来い、知らせてやろう」となるのですが、二人は曽根崎の森へ向かったあと。お初の書置きを見た人々は、二人が心中しようとしていることを知ります。急いで徳兵衛とお初を探しに行くのですが……。


そう、間に合わないんですよね。これが悲劇を一段と悲しいものにしています。


私は現実に悲劇は起こって欲しくなくて、だからこそ物語に悲劇を求めてしまう性格です。今回観た『曽根崎心中』は、悲劇の中でも最上級ではないかと思うくらい悲しくて、極上の演技を見たなあ……と感じています。観劇が終わってからも、徳兵衛とお初のことを考えてしまうものね。


ただ、こちらの演目も私にとっては納得できないことがありまして。というのも、とても悲しい物語なのに、所々にコミカルなシーンが入るんです。観客席からも笑いが起きていたのですが、私の心は既に悲しみモードに入っていたので、そこで笑えなかった。「ここで笑いを取りにいきます?」と、少々しらけてしまったのでした。うーん、私には必要性がわからないシーンだった。


私にはわからなかっただけで、必要なシーンなのかもしれないですね。個人的に気になったのはそこだけで、面白いところは沢山ありました。

【まとめ】吉例顔見世興行は歌舞伎ファン歴ゼロ日の初心者でも楽しかった!


結論、とても楽しかったし、知識や観劇経験がなくても充分に楽しめると思いました。演目によるかもしれないけど、セットがあって場面がわかりやすいし、言葉もそこまで古くない印象でした。


何より、ぼーっと見ていても理解できるように作られていると思いました。台詞の一言一句まで理解するのは確かに大変だけど、ぼんやりしていてもストーリーの大筋はわかるようにできてます。観る側に労力をかけさせないよう配慮している、というか。エンターテインメントですね。


もちろん、知識を身につけたり深く読み込んだりすれば、観劇はより面白くなると思います。でも、そこまでできない初心者だって歌舞伎は楽しめます。楽しみながら、少しずつ知識を増やしていければ良いんじゃないかな。「知識がないとわからない・面白くない」ってことはないし、なんていうのかな、「敷居は低いが、奥は深い」という感じです!


初心者的には、演目のあらすじを少しだけ知っておけば、ストーリーに置いて行かれたときの保険になるかな、と思います。初心者さん向けの本では、『歌舞伎の101演目解剖図鑑』がおすすめです。



よく上演される演目は網羅されているので、あらすじの予習に役立ちます。化粧やかつらの意味など、歌舞伎のミニ知識も豊富だし。なにより、たっぷりのイラストで解説されているので、わかりやすいし演目のイメージが湧きます。初心者向けの歌舞伎本をいろいろ見て比べたのですが、今のところ本書が一番わかりやすいと思います!


初心者でも歌舞伎は怖くないですよ! 楽しいポイントは人それぞれなので、肩の力を抜いて観劇してはいかがでしょうか。


⇒京都・南座 公式ホームページ

観劇後のお茶とおやつ

南座で歌舞伎を観たあとは、河原町通を北上し、『甘党茶屋 京 梅園』でお茶とおやつをいただきました。みたらし団子が有名なお店です~!



私がいただいたのは、みたらし団子きなこ白玉お抹茶のセット。1080円でした。梅園さんはみたらし団子のほか、クリームあんみつ抹茶パフェぜんざいなど、甘味メニューが充実しています。夏はかき氷も。



俵型のお団子って珍しいですよね。みたらしの甘辛タレがよく絡みます。お団子は炭火で焼いた香ばしい風味がして、最高に美味しかった!


みたらし団子をはじめ、一部のメニューはテイクアウトもできます。私はレジ横にある天日干しのかりんとうが気になったのですが、「ください」と言う前にお会計が終わってしまった……。関西の皆さんのペース、東の田舎でのほほんと育った私には速すぎる。次に行ったら絶対買う!



⇒『甘党茶屋 京 梅園』公式ウェブサイト

東人が京都ライフを発信する『和文化の定理』

千葉生まれ千葉育ちの美術ライター、明菜は京都に転居しました。日本の文化や伝統を学び、京都に染まって帰郷するべく、『和文化の定理』では京都のリアルな暮らしを発信します!

『和文化の定理』のSNSでは、記事に載せられなかった写真や、お蔵入りのネタも発信。
◆ツイッター⇒
◆インスタグラム⇒Instagram

Translate

記事を検索

お仕事・お問い合わせ

akina.a.origami☆gmail.com

「和文化の定理」を運営する明菜へのお問い合わせ・寄稿などの依頼はメールでご連絡ください。

QooQ