東京国立博物館で特別展「桃山―天下人の100年」が始まりました!「桃山時代」の美術品を中心に、室町時代末期から江戸時代初期の美術品、茶碗、甲冑、刀剣などを見られる展覧会です。
とにかく豪華な屏風や襖絵があり、まばゆい金色に目を奪われますし、それだけでも見に行く意味があると思います。ですが、展覧会に行く前に、桃山美術やキーワードをいくつか押さえておくと、より展覧会を楽しめるはず。
この記事では、桃山美術とは何か、どんなところに注目すると良いのか、紹介していきますね。
桃山美術とは?
美術史の時代区分は、歴史の教科書で習う歴史区分と少し違うことがあります。その一つが「桃山時代」で、この時代の美術品のことを「桃山美術」と呼びます。
美術史における桃山時代は、安土桃山時代とほぼ重なっています。安土桃山時代は1573年の室町幕府滅亡から1603年の江戸幕府開府までの30年間であり、桃山美術はこの間に栄えた日本の美術を指しています。
展示風景
桃山美術の特徴は、豪華さや力強さです。屛風や襖絵には金箔や金泥がふんだんに使われ、まばゆい光を放っています。戦乱の時代、天下人を目指した武将の城を装飾した美術品ということもあり、彼らの趣向や権力を反映した造形となっています。
特に押さえておきたい絵師が、狩野永徳です。永徳は織田信長や豊臣秀吉にも重用された絵師で、彼らの城の障壁画などを多く手がけました。
また、狩野派とライバル関係にあった絵師には、長谷川等伯や海北友松、雲谷等顔などがいます。狩野派との違いに注目して見ていくと、面白いのではないでしょうか。例えば等伯の作品は、にぎやかさと優美さを兼ね備えた調和の取れた作品が多いように思います。豪快な永徳の作品とはまた違った味がありました。
展覧会では桃山美術を中心に、その始まりが見える室町時代後期の作品や、総まとめとなる江戸時代初期の作品も鑑賞することができます。時代とともに移り変わった美意識を学び、当時の人々の感動を追体験できる、良質な展覧会となっています。
展覧会を読み解くキーワード
桃山時代の文化は、屛風や襖絵だけでなく、茶の湯や南蛮美術など多岐に渡ります。桃山文化を理解するヒントとして、和文化の定理が厳選した3つのキーワードを解説していきましょう。
- 洛中洛外図
- 茶の湯
- 西洋文化の影響
洛中洛外図
『洛中洛外図』は、京都の中心地(洛中)と郊外(洛外)を描いた絵画のことです。室町時代後期から江戸時代まで、盛んに制作されてきました。高い位置から京都を俯瞰するように描かれているのが特徴です。
屛風には京都の景観だけでなく、その地に暮らす人々の様子まで描かれています。景観と人物とが、解像度高く表現されているのが興味深いです。単眼鏡を使って拡大し、人物の様子まで隅々まで見たいですね。
当時の政治の中心地は京都だったので、洛中洛外図を絵師に描かせ、所有することは相当に地位のある者にしかできなかったのでしょう。屛風を左右ではなく向かい合わせに配置し、その間に座れば京都と市井の人々をパノラマで見渡すことができます。「俺の天下」状態ですね。
そう考えると、天下人の時代に洛中洛外図が盛んに作られた意図を推察できるのではないでしょうか。京都の景観だけでなく人々の暮らしまで詳しく描かれているところが、脚色はあるにしても天下人の心を揺さぶったのだと思います。
ちなみに、本展でも見られる狩野永徳の《洛中洛外図屛風(上杉家本)》は、織田信長が上杉謙信に贈ったものとされています。この屛風については、足利義輝が上杉謙信に贈るために描かせたとする説もあるのだそうですよ。
茶の湯
『茶の湯』も、桃山時代を知る上で絶対に欠かせない文化です。本展でも、千利休、古田織部らにゆかりの茶道具が数多く展示されていました。
日本で一番有名な茶人といえば、千利休ですよね。利休は自らの美意識によって道具を選び、日本製の茶道具を茶席に持ち込みました。
それまでは中国からの輸入品である高級な唐物を使うのが主流だったため、和物を持ち込むのは大変な革命でした。茶の湯に参加できる人が増えたのも、日本製の茶道具で優れた名品が残っているのも、利休のおかげが大きいと言えるでしょう。
利休が好んだ「侘び」を表現しているのが、長次郎による『楽茶碗』です。ろくろを使わずにこねて作った器で、赤や黒のシンプルな色彩が特徴です。マーク・ロスコの絵画に共通するような、静かで奥行きのある造形に惚れ惚れしてしまいます。
利休の次の時代に茶の湯を率いたのが、弟子の古田織部です。「ヒヅミタル」と表現される彼の好みを反映した、美濃の織部焼は、歪んだ形が印象的な茶碗です。
桃山時代に茶の湯文化が発達した背景には、世の中が落ち着いてくるとともに、武力だけで民衆を支配することができなくなってきたことも挙げられます。良い茶道具を持つことが権力の象徴にもなっていたので、武力の次は茶の湯に注力したのですね。
本展では、360°ぐるっと見られるように展示されている茶碗も多かったです。角度を変えて見ることで器の景色が変わって、より深い世界を見られるので、ぜひぐるぐる回りながら鑑賞してみてくださいね。
ケース越しの鑑賞だとどうしても茶碗は近くでは見られないため、単眼鏡を持っていくことをおすすめします。かなり拡大して見られるので、数センチまで近づいたような感じで鑑賞することができますよ!
西洋文化の影響
最後に、ヨーロッパ文化の伝来にも触れておきましょう。1543年には鉄砲が伝来し、1549年には宣教師フランシスコ・ザビエルが渡来して日本に初めてキリスト教が伝えられました。西洋文化との出会いは日本人に大きなショックを与え、美術にも大きな影響を与えています。
キリスト教の布教のため、宣教師たちは西洋絵画の教育も行いました。陰影法や遠近法を用いた西洋風の作品も多かったです。屛風に描かれているものは、西洋と日本の美術が合体したような面白さがありますね。
また、異国への憧れを反映したかのような「南蛮屛風」も興味深いです。南蛮船の入港や南蛮人たちが描かれ、当時の服装なども分かってとても面白かったです。南蛮屛風は狩野派の絵師たちを中心に制作されていました。
世界地図を大きく屛風に描いた作品もあるそうで、現代人からすると「これをわざわざ屛風に描くか!?」と思う作例も。ヨーロッパの進んだ知識が入ってきて、テンションが上がっていたのかな、など想像するのも楽しいですよね。
【まとめ】全国の名品が集結した展覧会を最大限楽しもう!
特別展「桃山―天下人の100年」の鑑賞体験を充実させるため、押さえておきたい基礎知識を解説してきました。ポイントをおさらいしておきましょう。
- 桃山美術には、狩野派や長谷川等伯らの豪華な屛風・襖絵などがある
- 茶の湯文化が最高潮を迎えたのも、桃山時代
- ヨーロッパ文化が伝来し、日本の美術も影響を受けた
本展は国宝や重要文化財にも指定されている優れた名品ばかりで、頭がクラクラしそうなほどの素晴らしさでした。ぜひより良い鑑賞体験にしていただけるよう、ポイントを押さえていただければと思います。
茶碗や屛風などの細かいところまで鑑賞するためにも、単眼鏡を持っていきましょう!
⇒ケンコーとビクセンの単眼鏡の比較(アートの定理)
展覧会情報
特別展「桃山―天下人の100年」
会場:東京国立博物館 平成館
会期:2020年10月6日(火)~11月29日(日)
休館日:月曜日(ただし11月23日[月・祝]は開館)、11月24日(火)
開館時間:9:30~18:00(金曜、土曜日は21:00まで開館)
公式HP:https://tsumugu.yomiuri.co.jp/momoyama2020/
※本展は事前予約制です。オンラインでの⽇時指定券の予約が必要です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。
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参考文献はこちら。表紙の永徳の唐獅子図屛風は、展覧会後期で展示されます!