東京藝術大学大学美術館で『渡辺省亭-欧米を魅了した花鳥画-』が開幕しました!
皆さんは渡辺省亭(わたなべ・せいてい、1852-1918年)という画家をご存じでしょうか? 明治から大正にかけて活躍したものの、歴史に埋もれてしまい、今では誰もが良く知る画家とは言い難い存在です。
しかし本展で一目見れば分かる凄さ! 以前から目利きの研究者やコレクターたちは省亭を高く評価していましたが、今回の初めての大規模な回顧展により、省亭の魅力が広まっていくでしょう。
和文化の定理ではなぜ省亭が今まであまり知られてこなかったのかを中心に解説するので、今見るべき理由を感じていただければと思います。
渡辺省亭はなぜ今まで知られてこなかったのか?
誰もが知っている画家とは言えないものの、作品を見れば腕前は一目瞭然。絵のレベルに対して知名度が低すぎるように思います。
そこでまずは省亭の作品の魅力をお伝えし、これほどまでの画家がなぜあまり知られていないのか、背景を解説していきます。
省亭の画力の高さ
とにかく省亭の作品を見て欲しい! ウェブや印刷物の画像だと魅力を100%は伝えられず本当に悔しいのですが、ぜひ生で見てみて欲しいです。
私が思う省亭の最大の魅力は、細部まで描かれストーリーに満ちた花や動物の絵画です。にじみを巧みにコントロールして、立体的な作品に仕上がっています。花も動物も「描いてある」というより、「そこにいる」ように見えました。
また、作品にはストーリーが満ちており、絵の前後の風景も立ち上ってくるようです。《牡丹に蝶の図》では鮮やかなピンク色の牡丹、白い牡丹、黒い蝶と明るく大きく描かれた主役に最初に目が行きました。ですが地面にははらはらと薄いピンク色の花びらが落ちており、どこから落ちたのかと目を絵の上の方へ滑らせていけば、わずかにしか花びらが残っていない、朽ち行く牡丹を発見できます。
「そこにいる」ような存在感のある絵を描ける技術に加え、1枚の絵で前後の時間のストーリーをも語るアイディアの力があり、いつまでも鑑賞できる作品です。私が思う省亭、伝わったでしょうか?
展覧会を避けていた?
あまり知られていない画家というと売れなかったため知名度が低いかのような印象があるかもしれませんが、省亭は実力を認められた売れっ子画家でした。花鳥画をはじめ彼の作品は高く評価され、制作依頼は後を絶ちませんでした。
省亭があまり知られていない一つの大きな理由に、公の展覧会にほとんど出品しなくなったことが挙げられます。また特定の団体に所属することもしませんでした。競争や画壇の政治に巻き込まれることを嫌ったためでしょう。
公の展覧会で作品を披露するよりも、省亭は自分の芸術を求めるコレクターなどのために制作をしました。そのため、自宅の床の間にかけて楽しめる作品が多いのですね。
本展では、壁面のケースに展示するいわゆる美術館らしい展示のほか、床の間での鑑賞をイメージした方法でも作品が展示されています。
没後に知る人ぞ知る画家となった背景には、展覧会などの公の場を避けていたことが大きいでしょう。ちなみに本展で展示される多くの作品が個人のコレクターの収蔵品です。
欧米における省亭人気
ところが省亭は欧米では非常に高く評価されており、メトロポリタン美術館やボストン美術館、大英博物館などにも収蔵されています。パリ万博への出品やロンドンでの個展の開催などを通じ、評価を高めたからです。
当時のパリは浮世絵など日本の作品が人気を得て日本趣味(ジャポニスム)が流行していました。ルノワールやモネなどの画家も自作に日本らしいモチーフを登場させています。
そのような時代背景もあり、省亭の花鳥画は高く評価され「花鳥画の名手」として人気を得ます。印象派の画家たちとも交流があり、《鳥図(枝にとまる鳥)》には「為ドガース君」と書かれているとおり、エドガー・ドガのために書かれたものです。
パリ万博に出品した《群鳩浴水盤ノ図》はジュゼッペ・デ・ニッティスというイタリア人画家が模写するために買い取ったのですが、技術が難しすぎて模写を諦めたエピソードもあります。ちなみに彼はエドゥアール・マネの弟子でした。
このように、省亭には欧米の画家も驚く技量がありました。ゆえに海外の著名な美術館にも作品が収蔵されているのですね。本展にはメトロポリタン美術館が収蔵する省亭の作品も数点展示されています。
【まとめ】渡辺省亭の作品に触れてみよう!
渡辺省亭について解説したことをまとめておきますね。
- 立体感やストーリーの表現が凄い!
- 公の展覧会にはあまり出品しなかった知る人ぞ知る画家
- 欧米で高く評価されている
省亭の花鳥画は群を抜いて素晴らしく、技量はもちろんですが、詩を表現する力が高いと感じました。美術館での大規模な回顧展は初めてなので、この機会にまとめて作品を見て省亭を魅力を体感しましょう!
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