肉筆画って何?『筆魂 線の引力・色の魔力 ー又兵衛から北斎・国芳までー』

2021年2月11日木曜日

美術館・博物館で和文化を学ぶ

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歌川豊国《三代目中村歌右衛門の九変化図屏風》(部分)文化12年(1815)頃 個人蔵


すみだ北斎美術館で『筆魂 線の引力・色の魔力 ー又兵衛から北斎・国芳までー』が開幕しました!


江戸時代の浮世絵の展覧会ですが、私たちが浮世絵と聞いて思い浮かべる「浮世絵版画」は展示されていません。「肉筆浮世絵」のみを展示する珍しい展覧会です。


歌川豊国《三代目中村歌右衛門の九変化図屏風》文化12年(1815)頃 個人蔵


「いや、浮世絵版画、肉筆浮世絵って何?」
「そもそも浮世絵って何だっけ?」

って思いますよね。


この記事では展覧会を紹介しながら、浮世絵についての基礎知識も解説していきます〜。

浮世絵とは?

「浮世」が「うき世」「憂世」に由来していることはよく知られています。


時代によって意味するところは様々ですが、江戸時代になると「浮世」は「当世風」といった意味で使われるようになったそうです。必ずしも「憂き世の中」という意味ではなく、現世を肯定的に捉える意味合いがありました。


西川祐信《美人生花の図》享保~元文年間(1716-41) 個人蔵


「浮世絵」という言葉が用いられた最古の資料が、延宝8年(1680年)刊行の可能性が指摘される菱川師宣の絵本『月次のあそび』なのだそうです。この中で「浮世絵」は、その時代の風俗を描いた絵を指す言葉として登場しました。(展覧会図録より)


浮世絵が当時の美人、歌舞伎役者、日本の名所などを題材とすることが多いのは、当時の風俗画だからと言えそうです。基本的には、江戸時代の暮らしを描いた庶民志向の絵、と考えて良いと思います。


菱川師平《髪結い図》元禄年間(1688-1704) 個人蔵


さて、浮世絵といえば葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」などの版画をイメージする方が多いかもしれません。しかし、最初に登場したのは肉筆画です。肉筆画→版本挿絵→版画の順に登場しているので、それぞれについて少し詳しく紹介します。

肉筆画

肉筆画(肉筆浮世絵)とは、絵師が絵筆を持って紙や絹に直に描いた絵のことを指します。


浮世絵の種類の中で、最初に登場したのが肉筆画です。(当たり前ではあるかな…)


懐月堂安度《やじろべえをもつ立美人図》宝永~正徳年間(1704-16) 個人蔵


本展で特集されているのが肉筆画で、作品を見ると絵師の筆運びを間近に感じられます。絵師が絵を描いている様子が、頭の中に映像として流れてくるんですよね。版画ではできない鑑賞体験です。

版本挿絵

木版で印刷された本を「版本(はんぽん)」と言い、その挿絵も浮世絵とされます。江戸時代には小説の一種である読本(よみほん)が流行し、絵師たちは挿絵の仕事を請け負っていました。


挿絵で名を上げた人物といえば、葛飾北斎です。曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の挿絵を北斎が描いて大評判となり、むしろ挿絵見たさに買われているのでは?という状況にまでなっていきました。


当時の北斎はまだ有名ではなかったのですが、江戸を代表する絵師になるきっかけとなったのが、挿絵の仕事でした。

版画

版画(浮世絵版画)も技術の発展を踏まえて歴史を読み解くと面白いのですが、今回は肉筆画の記事なので手短に…。


浮世絵版画で有名な作品といえば、葛飾北斎の『富嶽三十六景』、歌川広重の『東海道五十三次』などではないでしょうか?このような版画作品は絵師が一人で作るものではなく、分業制で作られました。


一般的な流れは、版元(出版社のような立場)からの依頼で絵師に版画の下絵を作り、彫師が下絵に基づいて版木を作り、摺師が色をつけて摺ります。こうして分業するため、絵師の筆遣いがダイレクトに現れている…とは言えないでしょう。


このように浮世絵を比較してみると、版画だけじゃないんだなぁ、と分かってきますよね。絵師が直に線や色をつけた肉筆画は、もうちょっと知られても良いような気がします。

展覧会の見どころ

本展の見どころは「筆魂」ですよね!「絵師が筆に込めた魂」を肉筆画から感じ取りましょう。


宮川長春《立美人図》宝永年間(1704-11)~享保(1716-36)前期 個人蔵


美人画が多く展示されていたので、着物の柄に注目すると面白いのではないかと思いました。モチーフの引き出しの多さ、グラデーション、たらしこみと絵師の経験と技量が着物に詰め込まれているように感じます。


宮川長春《立美人図》(部分)宝永年間(1704-11)~享保(1716-36)前期 個人蔵


着物が絵師にとってのキャンバスになっているような、自由な柄が良いんですよね。絵の中の絵。キャンバス内キャンバスみたいな。


葛飾北斎、勝川春英、歌川豊国、勝川春扇、勝川春周、勝川春好《青楼美人繁昌図》文化(1804-18)中期頃 個人蔵


思えば、「肉筆画」の「肉」もなかなか凄いですよね。「手描き」や「直筆」ではなく「肉」を使うところにグッときます。絵師が全身を研ぎ澄ませて絵を描いている様子や、命を削る気持ちで絵を生み出していることが連想されると思います。

葛飾北斎《登龍図》弘化3  年(1846) 個人蔵


ちょっと駆け足になりましたが、肉筆画の魅力はやはり実物を見ないと伝わらないと思いますので…!アートの定理でも見どころを紹介したので、こちらも参考にしつつ、展覧会に足を運んでいただければと思います。

実力派の絵師たちの筆運びに刮目せよ!『筆魂 線の引力・色の魔力 ー又兵衛から北斎・国芳までー』|アートの定理

【まとめ】筆魂は肉筆画に宿る!

とにかく「肉筆画を特集した浮世絵展」というのが珍しいです!こんなに沢山を一度に見たことあったかな〜って思ってしまうくらいに。

展示風景


肉筆画で絵師が引いた線を目で追いかけると、絵師が絵を描く様子が頭の中に再生されるんです(2回目)。大事なことだから2回言いました。そういう意味で立体的に見える感じがします。


すみだ北斎美術館の常設展では版画の作品も見られますし、比較するのも面白いです。それぞれの魅力を発見したいですよね。

展覧会情報

会期:2021年2月9日(火)~4月4日(日)

〇前期:2/9(火)~3/7(日)

〇後期:3/9(火)~4/4(日)

開館時間:9時30分~17時30分(入館は17時まで)

休館日:月曜日

会場:すみだ北斎美術館


展覧会の図録はこちら!

肉筆浮世絵の画集としても楽しめますし、何より「肉筆画」に焦点を当てた本は珍しいので、永久保存版です。



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