画家の観察力が光りすぎ!『竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス』

2020年9月29日火曜日

美術館・博物館で和文化を学ぶ

t f B! P L
【重要文化財】竹内栖鳳《班猫》1924年 山種美術館


 山種美術館で特別展『竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス』が開幕しました!


竹内栖鳳(たけうち せいほう)は、近代の京都画壇を牽引した画家で、特に動物画の名手として知られています。展覧会タイトルにもある《班猫》は、近代日本画における動物画の傑作で重要文化財でもあります。


この記事では、竹内栖鳳とはどんな画家なのか、動物を描いた日本画には他にどんな作品があるのかを解説していきます。Cafe椿で食べられる、作品をイメージした和菓子も紹介します!

竹内栖鳳とは?

見どころの前に、竹内栖鳳について紹介しておきます。


竹内栖鳳(1864〜1942年)は戦前の京都画壇を代表する画家の一人です。数多くの動物画を残しており、「動物を描けばそのにおいまで描く」と言われたほど、動物画を得意としていました。


竹内栖鳳《鴨雛》1937年頃 山種美術館


その実力は、彼の動物画を見れば一目で分かると思います。しなやかな身体やふわふわの毛の表現は、まるで写真のようなんです。いや、その動物の「らしさ」を捉えて、画家の美意識によって少しのデフォルメを加えるのだから、写真を超える「本物らしさ」を伴っています。


竹内栖鳳《憩える車》1938年 山種美術館


ちなみに京都画壇とは、一般的には明治以降の京都の美術界のことを指します。本展で作品を見られる以下の5名の画家も、京都の画家です。


  • 西村五雲(にしむら ごうん)
  • 西山翠嶂(にしやますいしょう)
  • 橋本関雪(はしもとかんせつ)
  • 上村松篁(うえむらしょうこう)
  • 竹内浩一(たけうちこういち)


西村五雲、西山翠嶂、橋本関雪は栖鳳から直接学んでいるので、共通点を探りながら絵を見るのも面白いですよ。

展覧会の見どころ

続いて、『竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス』の方を詳しく見ていきましょう。和文化の定理が厳選した以下の3つの見どころを紹介していきます。


  1. 画家の鋭い観察力
  2. 珍しい動物への挑戦意欲
  3. 和菓子で楽しむ日本画

画家の鋭い観察力

まずポイントになるのが、画家の鋭い観察力です。例えば栖鳳は、猫の絵を描くときには猫を飼って、カエルの絵を描くときは10日間もカエルを観察し続けました。実物をよく観察することで、説得力のある絵が描けるようになるのですね。


竹内栖鳳《蛙と蜻蛉》1934年 山種美術館


京都画壇の元を辿ると、円山応挙(まるやま おうきょ、1733〜1795年)に行き着きます。応挙は生き生きとした動物画の表現で評判になった、江戸時代中期から後期の画家です。


実在する動物を写生して、毛の1本1本まで写し取ろうとした所に応挙の特徴があり、このスタイルは栖鳳を始めとする近代京都画壇の画家に受け継がれています。写生に基づく動物の表現は、江戸時代から脈々と受け継がれ、後世の画家によって発展して行ったのですね。


竹内栖鳳《みゝづく》1933年頃 山種美術館


さらに、栖鳳はヨーロッパに渡って西洋美術に触れた経験から、実物をよく観察して描くことの大切さを実感したそうです。帰国後はより一層、観察と写生に根差した制作を行いました。


鑑賞者が「こういう猫、確かにいるよね」と口に出しそうになるほどのリアリティがあり、確かに栖鳳は群を抜いていると感じました。「動物を書けばそのにおいまで描く」、そのとおりかもしれません。

珍しい動物への挑戦意欲

日本画の動物画の対象は、身近な生き物だけではありません。日本では見かけない生き物を取材し、描いた作品もあって、当時の画家たちの挑戦意欲も感じることができます。


西村五雲《白熊》1907年 山種美術館


例えば、西村五雲の《白熊》です。シロクマは北極圏の動物なので、日本で普通に見かけることはありませんし、日本画の題材にもなってきませんでした。


五雲は、そんな新しいモチーフであるシロクマに挑戦しました。日本で2番目の動物園としてオープンした京都市動物園で、シロクマを繰り返し写生して作品を制作したそうです。


西村五雲《白熊》(部分)1907年 山種美術館


伝統的な日本画らしい表現でありながら、見慣れないシロクマをダイナミックに描いた作品です。しかも背景は北極のようで、オットセイを捕まえる構図で描かれています。動物園で見たシロクマを基に、どんな舞台を用意すればシロクマが最も輝いて見えるか、画家が美意識と計算によって絵を整えた様子も分かります。


奥村土牛《兎》1936年 山種美術館


奥村土牛が描いたアンゴラ兎も面白かったです。珍しいアンゴラ兎を飼っている人のところへ出向き、写生して制作した作品です。


奥村土牛《兎》(部分)1936年 山種美術館


アンゴラ兎は顔が毛で覆われてしまうほど毛が長くてもふもふの兎です。土牛の絵にも、撫でる手が埋まりそうなほど濃密な毛が丁寧に描写されています。


珍しい動物を描きたくなるのも、画家の習性なのかもしれません。

和菓子で楽しむ日本画

こちらは展覧会の前後のお楽しみですね。山種美術館にはCafe椿というカフェがあり、展覧会の作品をイメージした和菓子を楽しむことができます。


本展開催期間中は、こちらの5種類の和菓子をいただけます。



竹内栖鳳が描いた鯛をイメージした『めで鯛』、五雲の《松鶴》をイメージした『吉祥』など、絵画のような和菓子です。それぞれ味も違うので、全部食べたくなってしまいますよね…!


和菓子はお持ち帰りもできるので、全種類食べてみたい方も焦らなくて大丈夫です!

【まとめ】日本の動物画は挑戦の歴史でもあった!

展覧会『竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス』について紹介してきました。ポイントをおさらいしてまとめておきましょう。


  • 竹内栖鳳は近代京都画壇を代表する画家
  • 動物画のリアリティは円山応挙に始まる『写生』が肝心
  • 新たな画題への挑戦も、動物画の未来を切り開いた
  • 作品をイメージした和菓子も楽しめる


可愛らしい動物画をたくさん見られるので、至福の展覧会です!とはいえ癒されるだけでなく、動物画は観察と写生に力を注ぎ、新たなモチーフで画題を更新した、画家たちの挑戦の歴史でもあったのだと感じました。

展覧会情報


展示風景


【特別展】竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス
併設展示:ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作 特別公開
会期:2020年9月19日(土)〜11月15日(日)
会場:山種美術館
休館日:月曜日[但し9/21(月)、22(火)は開館、9/23(水)は休館]
開館時間:平日:午前11時〜午後4時(入館は閉館時間の30分前まで)
     土日祝日:午前11時〜午後5時(入館は閉館時間の30分前まで)

『和文化の定理』のツイッター⇒


※取材許可を得て撮影しました。

Translate

記事を検索

お仕事・お問い合わせ

akina.a.origami☆gmail.com

「和文化の定理」を運営する明菜へのお問い合わせ・寄稿などの依頼はメールでご連絡ください。

QooQ