江戸の東海道みやげが今アツい!『もうひとつの江戸絵画 大津絵』

2020年9月24日木曜日

美術館・博物館で和文化を学ぶ

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 東京ステーションギャラリーで展覧会『もうひとつの江戸絵画 大津絵』が開幕しました!

展示風景

江戸絵画といえば、琳派や狩野派の絵画や浮世絵をイメージします。「もうひとつの江戸絵画」とは一体何なのでしょうか?

江戸時代には単なる「お土産」だった大津絵が、令和には美術館で「美術品」として展示されているのです。背景には、価値を高めたコレクターたちの活躍がありました。

《鬼の念仏》笠間日動美術館蔵

この記事では、大津絵とはどんなものなのかと、展覧会『もうひとつの江戸絵画 大津絵』の見どころを紹介していきます。知られざる「もうひとつの江戸絵画」のディープな世界を堪能しましょう!

大津絵とは何か?

大津絵は、江戸時代に大津周辺で量産された土産物の手軽な絵です。東海道の宿場大津のあたりで、主に旅人がお土産として買っていました。

展示風景

大津絵の画題(絵のテーマ)はとても豊富で、数百種類もあるという説も。仏画に始まり、鳥獣画など多岐にわたっています。傾向としては、風刺や教訓を表す洒落が効いたユーモラスなものが多いかと。「この絵は何を風刺しているんだろう?」と考えながら鑑賞するのも、謎解きのようで楽しいです。

護符としても売られたことがあり、画題によって意味が異なります。例えば『瓢箪鯰』は「万事うまく行くように」といったところでしょうか。

《瓢箪鯰》日本民藝館蔵

が登場する作品も多いのですが、怖い鬼ではなく愛嬌があります。人間と同じような振舞いをしていて、可愛らしいです。

また、ある程度の様式が決まっていたのか、とてもよく似ている作品もありました。同じ画題の作品を見比べるのも面白いかもしれません。

展覧会の見どころ

大津絵がどんなものなのか分かったところで、展覧会『もうひとつの江戸絵画 大津絵』を見ていきましょう。和文化の定理が厳選した以下の3つの見どころを紹介していきます。

  1. ゆるい雰囲気の絵の面白さ
  2. 大津絵を愛したコレクターたち
  3. 衰退していく文化の儚さ

ゆるい雰囲気の絵の面白さ

大津絵の特徴の一つが、絵のゆるい雰囲気です。すべてというわけではありませんが、全体的にとぼけた印象のユニークな絵が多くて、眺めているだけで楽しくなってしまいます。

展示風景

三味線を弾く鬼の絵もいくつかありました。どうやら大津絵特有のモチーフらしいですよ。和文化の定理では津軽三味線にも挑戦しているので、親近感が湧きました。鬼にも人間味があって親しみやすい所も、大津絵の魅力の一つかもしれません。

土産物として安く大量に作られたためか、シンプルではっきりとした絵が多いです。日本美術に特有のユーモアもあって、ちょっと笑わせに来ているような所も親しみやすくて良いですね。

「外法梯子剃」《大津絵図巻》より 福岡市博物館蔵

そんな大津絵は民衆のお土産または日用品だったのですが、江戸から明治に移る頃、大津絵の魅力を見出すコレクターたちが現れます。

大津絵を愛したコレクターたち

もともとお土産として民衆に親しまれた大津絵ですが、民藝運動の創始者である柳宗悦や洋画家の浅井忠などの目利きも評価するようになりました。庶民が面白がっただけでなく、画家もコレクションするほど、美術品としての価値を見出せる作品もあった、というのが興味深いです。

展示風景

浅井忠やルノワールに師事した梅原龍三郎は、大津絵とマティスの類似性も論じたことがあるそうです。安価で大衆的な絵は、目利きや芸術家によって、「芸術的な価値があるもの」としてアップデートされていったのですね。

さらに、パブロ・ピカソも大津絵を所有していました。猫が鼠にお酒を飲ませる「猫と鼠」の作品だそうです。トムとジェリーのようで、確かに文化や宗教が違う人にも伝わりやすい画題ですよね。

《猫と鼠》『古筆大津絵』より 笠間日動美術館蔵

本展ではコレクターを切り口に、誰がどの作品を持っていたのかが分かる構成になっています。それだけでなく、誰から誰の手に移ったのか、その裏に隠された壮絶なエピソードは…と追いかけていくと、大津絵を愛したコレクターたちの執念がうかがえます。

展覧会のポスターやチラシにもあるとおり、まさに「欲しい!欲しい!欲しい!」「何としても手に入れたい!」だったのですね。大津絵を土産物から美術品へと高めたコレクターたちの歴史も垣間見られる展覧会でした。

衰退していく文化の儚さ

では現在の大津では大津絵が盛んに作られているのかというと、残念ながら盛んではないです。大津絵の衰退を憂いた方などが現在も制作されてはいるのですが、ざっくり「江戸から明治への移行とともに廃れてしまった」と捉えられると思います。

展示風景

もともと大津絵は安価なもので、ぞんざいに扱われて作品の大半は残っていません。江戸時代末期にコレクターたちが目を付けていなかったら、大津絵は消滅していたのかもしれません。

そう考えると、大津絵だけでなく文化の儚さや淘汰される宿命を思ってしまいます。でも消えてからでは遅いんですよね。和文化の定理は「自ら習うことで文化を後世に伝える」をコンセプトにしているので、決意を新たにしました。

展示風景

私が知らない、既に消えて忘れ去られた文化はたくさんあるはずですが、大津絵がそうならなかったのは名コレクターたちのおかげと言えます。江戸の大津絵制作者たちも、まさか令和に展覧会が開かれているとは思わなかったでしょうね。

【まとめ】ディープな大津絵の世界に触れてみよう!

大津絵と展覧会『もうひとつの江戸絵画 大津絵』について紹介してきました。ポイントをおさらいしてまとめておきましょう。

  • 大津絵は江戸時代の東海道の宿場大津の土産絵
  • 日本美術らしいユーモアを楽しめる
  • コレクターの活動もあって評価が高まり、土産物から美術品へ

狩野派、琳派、浮世絵などの江戸絵画と違って、これまで大々的にスポットライトが当たって来なかった大津絵ですが、庶民的な味わいのある面白い芸術だと思いました。既存の美術史の外側にポッと生まれたようで、今まで見た絵とは違う趣きがあって興味深い展覧会です。

展覧会情報

展示風景


もうひとつの江戸絵画 大津絵
会期:9月19日(土) - 11月8日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
休館日:月曜日[9月21日、11月2日は開館]
開館時間:10:00 - 18:00
 ※金曜日は20:00まで開館
 ※入館は閉館の30分前まで
公式HP:http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202008_otsue.html


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※取材許可を得て撮影しました。

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